" 村篤設計塾2019in博多"河庄!
2020年 06月 10日
ここ数年、恒例行事になっている建築設計者のための設計塾。
昨年11月に博多で開催した後、しばらく体調を崩しておりました。
おそらく免疫力が落ちたことが要因かと思われますが、なんとか昨年末までには回復。
今年の設計塾の構想を練ろうとしていた矢先に、新型コロナウイルスの感染拡大が始まりました。
そんなわけで、ブログの更新が滞ってしまいましたが、少しづつ再開したいと思います。
塾の記事は、これまで時系列で書いてきましたが、これからは印象に残ったものを紹介いたします。
今回は、博多で開催した塾の中で、最も心に響いた建築から。
西中州の名店「河庄」です。
寿司・割烹で知られている名店で、60年もの間、博多市民に愛されてきました。
私が敬愛する吉村順三氏による設計で、縦格子のファサードが印象的な建築です。
これは、通りを歩く人からの視線を遮りながら、適度な光を屋内へ導くためのもので、
京都や高山の町家で用いられている木格子に通じるものがあります。
エントランスの先には、寿司職人が客の様子を見渡せるような構成になっていました。
決して広い店ではなく、かつ天井が高いわけでもないのに、視線が遠くへ運ばれることにより、
とても気持ち良い空間が展開されていたように思います。
そう言えば、ずいぶん昔にここを覗いた時、名力士ご夫妻がカウンターで寿司を摘まんでいました。
その時は気づきませんでしたが、吉村さんは客同士が顔を合わせないように考えていたのでしょう。
前の写真右手に見える階段を上がった先にあるのが、畳敷きの寄り付きです。
仕上材の選定には目を見張るものがありますが、天井の構成や照明計画は参考になりました。
右側窓の内側に嵌めてある障子は、自然光を入れるためなのか、上下だけあえて設けていません。
寄り付きの正面にある、大広間に通されました。
人数が多いからなのかもしれませんが、私はこの部屋になぜか親近感を覚えたのです。
始めて来たのにと思いましたが、よく考えたらここはよく建築誌で紹介されている部屋なのでした。
時間の許す限りじっくり見ようと努力しましたが、大変美味しい食事の魔力に導かれたおかげで、
結局この部屋の床の間だけ注視することにしました。
ここだけ見ていても、興奮冷めやらず、何度もシャッターを切ってしまいました。
正面から見ているだけでは分からない壁の凹凸が、この空間を引き締めていて、さらに床柱を奥へ
立たせることで、床の間と床脇を柔らかく繋げていることを、さりげなくやっていたのです。
手前の床脇の三段ニッチの寸法は絶妙で、奥に朱色の和紙を貼り、焼物が輝いて見えました。
その足元を見ると、地板と腰貼りの和紙の色調を合わせているではありませんか。
これにより、床脇が床から浮いて見えるように、吉村さんは考えていたのでしょう。
床の間と床脇をアップで見たところです。
左に見える焦げ茶色の地板の上に、右側からL型の床框が載っていて、その先に床柱が立っています。
銘木(建築の世界では吟味された木材のことをいう)好きなら、思わずよだれを垂らしてしまいそう。
また、その材の良さだけではない、この魅力は床に寝そべらないと発見できませんでした。
目を凝らして見てください。
左の地板から、右の床框が浮いて見えるのがお分かりでしょうか?
実際は浮いているのではなく、床框の正面下は上と同じ大面取り(材の角を大きく斜めにカットする)
をしていることで、床から浮いているように見せていたのです。
しかも、この床框は面取り以外の平面(上面と横面)を漆塗りにして、浮いた感じを際立たせている
ことも、よく理解できました。
こんなことをしていたら、早くも時間切れに。
美味しい料理も堪能しなければと、箸を進めることにしました。
最後に、また行きたいと思わせた絶品ランチのご紹介。
本来は寿司懐石なので、もっと品数は多いのですが、中でも舌に残った前菜と寿司盛りです。
寿司ネタは季節によって変わるのかもしれませんが、私はオリーブオイルで食す卵焼きが一番でした。
建築好きとグルメ好きの方は、ぜひ博多の名店にお立ち寄りされることをお薦めします。
by mura-toku
| 2020-06-10 16:09
| 建築